INTRODUCTION
燃え滾るギター、奮え立つベース、畳み掛けるドラム。
fOULという、何処を探しても何処にもない音と佇まいのバンド。その実演と実在の記録。
fOULという、何処を探しても何処にもない音と佇まいのバンド。その実演と実在の記録。
90年代初頭にUSパンク/ハードコア直系のサウンドで日本の音楽シーンに新境地を切り開いたバンド、BEYONDSの谷口健(Vo./G.)、大地大介(D.)が1994年、札幌ハードコア出身の平松学(B.)を誘い3人で結成されたバンド、fOUL(ファウル)。鉄壁のリズムと何かがおかしくも掻きむしられるギター、繊細に吠えるボーカルのアンサンブルが「いったい何に遭遇しているのか」表現できない衝撃とともにアンダーグラウンドで絶大な影響を及ぼしたバンドだ。fOULはアメリカン・ハードコア/パンクと日本独特のメロディ、語彙を融合、どこにも存在しない音楽性で、eastern youthやbloodthirsty butchersとのライヴ活動や音源発売、「砂上の楼閣」と題された自主企画ライヴを計34回にわたって主催。サンフランシスコ、バンクーバー、ロサンゼルスでの海外レコーディングではフランク・ザッパやエルトン・ジョン、U2やモリッシーを手掛けるエンジニア/プロデューサー、ジョー・チカレリがプロデュースを買って出ており、その無類の音楽性に衝撃を受けてのことだったに違いない。だが、4枚目のフルアルバム発表後の2005年、fOULは突如休憩を表明、以後16年が経過しバンドは蘇生することなく現在に至っている。
そのfOULを描くドキュメンタリー映画が本作『fOUL』だ。監督は音楽レーベルLess Than TVの魔力に迫った『MOTHER FUCKER』(2017)、パンクロックバンドthe原爆オナニーズを描いた『JUST ANOTHER』(2020)に続き、これが長編3作目となる大石規湖。各所に散らばっていたアーカイヴ素材を発掘、ライヴ映像を中心にバンドと音楽のみが存在する、観る映画であり、聴く映画であり、ライヴを体感する映画としてまとめ上げた。シンプルかつダイナミックに構成された、言葉や情報に頼らない巧みな編集は、まさにその魅力に言葉が追いつかないfOULを描くに相応しいものとなった。音楽のミックスはfOULやeastern youthのライヴのPAを担当する今井朋美の監修のもと、元eastern youthのベーシスト二宮友和が手掛けている。破格の成功もない。感動のドラマもない。知られざる真実や内幕もない。ここにあるのは未だ色褪せぬ豊潤な音楽、バンドをやる楽しさと喜びだけ。過去にライヴ音源や映像作品の発表はなく、全アルバム作品が廃盤状態のfOULの現状唯一の入り口となるのが映画『fOUL』だ。